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脱炭素に向けEV(電動車)化が加速!EUのクルマ事情

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欧州委員会は7月中旬、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするための今後10年間の法案を、”European Green Deal”として発表しました。
脱酸素化を強力に推進するEUにおいて、昨年よりEVの販売が急加速しています。その理由を検証してみます。

European Green Deal FactSheet
※出典:European Green Deal FactSheet

2020年に世界で販売されたEVは約300万台。うち140万台はEU

英国の調査会社LMC Automotiveによると、2020年通年(1~12月)のライトビークル(中大型商用車を除く)の世界販売台数は7,766万台になりました。このうち、エンジンのないモーターのみで走るEV(電動車)は約300万台で、うち欧州市場での新規登録台数が140万台を占め、中国を初めて抜いたということです。

これは欧州委員会当局が打ち出した、自動車業界にEVシフト(電動化)迫るアメとムチの結果といえるでしょう。

 

厳しい規制とEV補助金が、自動車業界の背中を押し、本気にさせた

「ムチ」とは、厳しいCO2排出規制と超過した際の罰金、2035年のエンジン搭載車(ハイブリッド車含む)の販売禁止。そして「アメ」は最高9000ユーロ(117万円*)EV購入補助金です。ガソリン車と比べて割高なEVですが、この補助金があればむしろ安く買えることになり、ユーザのEV需要を喚起しているのです。*1ユーロ=130円換算

これによって各クルマメーカーはEV化を急がざるを得ず、かつコスト面、性能面でカギとなる車載電池開発や工場の新設など多額の投資が必要となります。サプライチェーンも工場設備もこれまでと大きく変わるからなのです。

2022年までにメルセデスベンツは全セグメントにEVを導入。2025年以降の新型車はEVのみ発売と宣言した。※出典:ダイムラーサイト

 

BMWは2023年に電気駆動モデル25車種のリリースを予定している。 ※出典:BMWドイツ本国サイト

 

VW、メルセデス、BMWら、主要なクルマブランドの莫大なEV投資

昨年はトヨタにトップの座を譲りましたが、年連続世界シェア第1位のフォルクスワーゲン(VW)グループは、2018年から5年間にわたり、440億ユーロ(5兆7000億円)をEVの新技術開発に投資すると宣言。またダイムラーは、メルセデス・ベンツブランドで2025年以降に発売する新型車を全てEVとするとし、車載バッテリーを生産するための工場ネットワークの構築を進めるなど、2022~2030年にかけてEV関連で400億ユーロ(約5兆2000億円)以上を投資する計画を発表しました。

BMWは、EV販売の好調をうけ、2024までに生産するEV用車載電池の発注額を200億ユーロ(約26000億円)に拡大するとしています。

自動車業界のEVシフトの動きは、社会情勢から当然の流れでした。それに加え、欧州委員会が打ち出したアメとムチの方針は、その動きをさらに加速させ、莫大な投資を引き出させたのです。

 

フォルクスワーゲンの量産型EV ID.3とID.4(SUVタイプ) ※出典:フォルクスワーゲングローバルサイト

 

急速なEV化が、官民の協調で進んでいることを象徴するイベント

自動車メーカーは各国にとって、重要な基幹産業であり、その成功によって国の経済も活性化します。201911月、VWがザクセン州のZwickau(ツヴィッカウ)工場で初の量産型EV「ID.3」の生産開始を記念した式典を開催。この模様はインターネットでライブ配信されましたが、この場にドイツのメルケル首相が出席して、EV普及への強い意欲を明言しました。

通常、民間会社の製品イベントに国家元首が出席するのはそうあることではありません。メルケル首相は、EV普及は国策として本気で取り組んでいることをアピールしたかったのでしょう。これは、ヨーロッパのEV普及が官民の協調によって進められていることを象徴する出来事となりました。

 

VWのEV ID.3の生産開始セレモニーで演説するメルケル首相。「EVがビートルやゴルフのように誰もが手に入れられるような存在になる。まさしく“国民車”に」と語った。※出典:YouTube Volkswagen News

EV普及のカギを握る、急速充電ネットワークの整備

EV普及に不可欠なインフラとして、充電設備があります。一般家庭用電源で充電した場合、7.515時間程度かかると言われていますが、問題は外出先での充電です。欧州には、現時点で最大出力の350kWの急速充電ネットワークIONITY(アイオニティ)があり、すでに高速道路を中心に360か所以上に設置されています。車載電池容量にもよりますが、数分~15分程度で80%の充電が完了するといいます。数分程度なら、ガソリンスタンドに立ち寄るのと大差はありません。

IONITYは、VWグループとその傘下のポルシェ・Audi、さらにBMWグループ、ダイムラー、そしてフォードモーターが2017年に合弁で立ち上げた会社(後に韓国の現代自動車グループも資本参加)。インフラ面もEVメーカーが投資し、ビジネス化していく流れができているのです。

カーメーカー各社が合弁で立ち上げた急速充電ステーションIONITY。数分~15分程度で80%の充電が可能。※出典:IONITYサイト

 

IONITYはCCS2規格にあたり、出力は350kW。出力が大きいほど充電時間は短い。  ※出典:電子デバイス産業新聞

さて、日本国内の充電インフラの状況はどうなのか?

日本はというとCHAdeMOという国際規格の急速充電設備が7,700か所ありますが、普及しているのは50kWが中心で一部は100kW30分1時間は必要になります。充電時間が長ければ、いくら拠点数を増やしたところで回転率が悪く、待ち行列ができてしまいます。ちなみに、CHAdeMOはヨーロッパでは16000か所以上に設置されています(※充電ポイント数は、CHAdeMO協議会サイトより)

CHAdeMOでは、IONITYなみの350kW400kWの高出力規格を開発中ですが、メーカーが充電器を完成させ、各地に設置されるまでにはまだ時間が必要になることでしょう。

そして、充電設備のボトルネックは、設備のランニングコストと耐用年数。充電器1基あたり電気代含め年間70130万円の運用コストがかかり、商業施設や宿泊施設が利用者の利便性向上を狙って設置したものの稼働率が低く採算が取れないケースもあり、充電サービスをやめるところも出ているようです。

また、充電器の耐用年数は8年程度といわれていて、製品の更新や修繕が必要な時期を迎えたが、十分な集客や収益につながらなかったため、そのまま撤去するといった事例も増えています。(※日経ビジネス20216記事より抜粋)

 

カーボンニュートラルに向けて、EUに学ぶべきこととは?

EUは「脱炭素をビジネスチャンスととらえている」という見方をする人も多いです。しかし、2050年に向けて時間が限られている中、必要なリソースやアセットを効率よく投下していかなければカーボンニュートラルの達成はなしえません。産業界、企業の持つパワーを結集させるには、国がビジネス機会を指し示し、投資や技術開発を促す必要があるのではないでしょうか。

メルケル首相は上記のイベントで、EV普及のために「政治家として私たちの仕事は新しいイノベーションが定着するための枠組みを作ることだ」として充電インフラの整備に35億ユーロを投じると明言しています。国としてもインフラの整備をもちろん進めますが、上記のIONITYのような合弁事業による整備があって、インフラの確立はよりスピードを増していくのです。そしてユーザは補助金も受けつつ、安心してEVを購入できるわけです。

202162、政府が発表した「2050 年カーボンニュートラル に伴うグリーン成長戦略(案) 」の中で、2030年までに、急速充電設備を4倍の3万基にすると明記されていました。これに対して、日本自動車工業会の豊田会長は「数だけを目標にしてほしくない。設置できる場所に設置していくということになり、結果稼働率が悪いということになりかねない」と語り、設置数だけを目標とすることの懸念を示しました。また「もう少し自動車業界を当てにしていただきたい。自動車にコネクテッド技術を入れている場合、電動車が多く走る、集まる場所はどこなんだということがある程度特定できると思います。」とも。(EVSmartブログ 電気自動車ニュースより抜粋)

つまり、EVの利用者動向は我々メーカーが把握しているので、必要な場所への設置を優先的に進められるはず、という提言を豊田会長はしています。

ユーザーデータに基づいて次の一手を決めていくのは、民間企業ではごく当たり前。政府は、豊田課長が言うように、もっと自動車業界をはじめ「関連業界を頼って」はどうでしょうか。

EUに学ぶべきなのは、政府と民間の関連業界が密に連携し、双方の力を出し合いながら、この脱酸素というプロジェクトをドライブしていくことではないでしょうか。

 

コラム執筆

中 村  大 輔 (シニアプロデューサー/戦略プランナー)
広告会社にてコピーライター、コピーディレクター、プランナーを経て、1999年メンバーズ入社。大手企業のデジタルマーケティング支援、大規模サイト構築 / 運用プロジェクトをプロデューサー/プランナーとして推進。

カテゴリ: CSV, SDGs
2021年09月17日