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いざ、ゲームチェンジ!2030年までの温室効果ガス排出削減目標を50%以上に

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本記事は、メンバーズの取締役である高野 明彦が執筆したものです。

 

今にわかに日本の国別温室効果ガス排出削減目標(以下、NDC)の注目が高まっています。バイデン大統領の要請に応じて、当初の想定よりも早く4月22-23日の気候サミットに向けてNDCを大幅に引き上げるためです。

環境系のNPO活動や気候変動問題に熱心に取り組む俳優のレオナルド・ディカプリオ氏のツイートをはじめ、多くの人が日本のNDC引き上げを求めています。

「NRDC(天然資源防護協議会)によれば:日本のような国々は、2030年までに少なくとも50%の温室効果ガス排出量を削減することにコミットすることが非常に重要です。菅首相、ぜひコミットメントを引き上げて、気候変動問題に取り組んでください」(筆者訳)

 

現在の日本が掲げる目標は、2013年比で26%減というもの。しかしこれは今の国際社会が目指しているパリ協定の1.5度目標の元となっているIPCCレポートの2010年比45%減とは全く整合していないため、大幅な引き上げが求められています。2010年比45%減という水準は、日本が基準としている2013年比でいうと50%強となります。従ってディカプリオ氏が言及しているように少なくとも50%削減というのは妥当な数字。しかし漏れ伝わってくるところでは、政府は13年度比40%から45%という数字で、難航しながら調整しているようです。

首相は会談後、同行記者団に22~23日に米国が主催するオンラインの気候変動サミットまでに新目標をまとめる考えを示した。13年度比40%程度の削減を土台に上積みの余地を探ろうと政府内で調整が続く。
引用:日本経済新聞「日米、脱炭素へ「確固たる行動」 再生エネ拡大が課題」

日本は現在、13年度比で26%減らす目標を掲げるが、これを45%前後まで大幅に引き上げる方向で調整している。
引用:朝日新聞「温室ガス削減、2030年目標は「共に設定」バイデン氏」

 

元々の26%減からすればいずれにしても大幅な引き上げであり、関係者の調整の努力は相当なものでしょう。そこには敬意を表したいと思いますが、国際協調の流れ(悪く言えば外圧)で引き上げようとしているのに、科学の要求にも、国際社会の要求にも適わない水準にすれば非難されるのは目に見えています。40%や45%では何のために引き上げたのかよく分からず、50%以上ではないといま引き上げる意味がないのです。

ところで、この40%や50%という水準は、ぱっと聞くといずれにしても高い削減率に聞こえますが、どれくらいのものか感覚的に掴んでみます。以下のグラフは環境省が発表している温室効果ガス排出量の推移です。

出典:『2019 年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(速報値)<概要>』

 

直近で発表のあった2019年度の温室効果ガス排出量は、2013年度比で▲14%。意外と削減できてると感じますね。これは再生可能エネルギーの拡大であったり、省エネの取り組みであったり、生産量の減少などによるものです。6年間で▲14%なので、このペースで2030年まで残り11年間も削減されると単純計算すると14÷6×11=25.7。あれ?14+25.7=39.7。このペースで40%行くじゃん!頑張ったら50%も行くんじゃない??と思えなくもないですね。もちろん、削減が容易なところから進んでいると思われるので、削減が進むほど次の1%を減らすのが難しくなっていくのでしょうが、あと9年あったら全く不可能というほどの数字ではないように思えます。そしてここでは詳しくは論じませんが、2030年までに50%削減というのは既存の技術で十分に達成できる水準と言われています。

 

気候変動問題が明日解決したって、日本経済・日本企業がジリ貧なのは変わらない

そんなに急激に進めたら経済へのダメージが大きい、という意見もよく聞く話です。もちろん大きなダメージを受ける業界や企業もあるでしょう。しかし、コロナや気候変動の話題で忘れそうになりますが、そもそも日本経済・日本企業はコロナや気候変動があろうがなかろうがジリ貧じゃないですか。資本主義の成熟と少子高齢化・人口減少が重なり、企業は投資機会を見いだせず、日本経済は低成長や格差の拡大に喘いでいる。仮に奇跡的に気候変動やコロナが明日解決したとしたって、日本が幸せになるわけではなく、閉塞感のある日常が戻ってくるだけ。今の経済モデルを前提に、経済への影響をなんとか和らげるように気候変動問題に対応したところでロクな未来は待っていないわけです。

 

目指すべきは経済モデルのゲームチェンジ

日本に限らず、資本主義が成熟して低成長に喘いでいるというのは他の先進国も似たような状況です。だからこそEU等は必死にゲームチェンジしようとしている。低成長に陥っているこれまでの化石燃料依存型の非持続的経済モデルを、脱炭素型の持続的な経済モデルに転換する。それを新たな投資機会、成長機会とする。このゲームに乗らない国、企業ははじき出されてしまいます。

多くの日本企業もこのゲームチェンジについて、理解しているはずです。よく気候変動対策はコスト増になるから企業が反対していると言われますが、そんな単純なものではありません。メンバーズも参加している、脱炭素社会への移行に積極的に取り組む企業団体である「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、JCLP)」も、「日本のNDCを2030年に50%以上削減(2013年比)」を提言しています。

そこにあるのはもちろん気候変動によって企業が寄って立つ社会・経済に対して甚大な被害が及びうるという危機感と同時に、ゲームチェンジに対する期待と危機感です。以下、JCLPの提言からの抜粋です。

2030年というより具体的な将来において明確なビジョンを掲げれば、さらに人、モノ、資金、政策資源が脱炭素化へと向かうことは間違いありません。民間企業に眠る240兆円の現預金を動かし、3,000兆円とも言われる海外の環境投資を呼び込むのであれば、そのビジョンは「50%以上削減」という大胆なものでなければなりません。

 

逆に、他国から遅れをとれば、過去風力発電設備の分野で起こったように、国内の脱炭素化に資する有望な産業が育たず、他国からそれらの技術や設備を購入せざるを得なくなります。また、企業はより確実に脱炭素化を実現できる立地を求めて他国へと拠点を移さざるを得なくなるという懸念も強まっています。仮にそうなれば国内の産業や雇用に大きな打撃となるため、何としてもそのような事態は避けることが必要です。

 

目指すべきは経済モデルの転換、ゲームチェンジです。その観点だけでいうと45%か50%かという数字そのものは厳密にはそれほど重要でもなく、45%目標であっても経済モデルを転換できうると言えるかもしれません。しかしこの議論は経済モデルの転換、ゲームチェンジというビジョンの設定とそのメッセージングの問題です。40%や45%という数字はいかにも現状からなるべく変化せずに積み上げでどうにか達成できそうな数字を国が作ったように感じられ、企業に「ゲームチェンジするぞ!大胆に投資しろ!」と言っているようには聞こえません。せいぜい「基本的に今まで通りだけどもうちょっとだけ頑張って」というくらいに聞こえます。なぜならもう少しだけ上に科学や国際社会が求める50%という数字があるのに、それを拒んで作っている数字なわけで、なるべく現状から変わりたくないという強い意志を感じるからです。気候危機も解決しない、世界から非難される、日本経済の閉そく感も変わらない(ひどくなる?)、、、いやー、書いていて暗い気分になってきました。。。

しかし、日本は目指すべきビジョンが定まれば非常に強い力を発揮できる国だと信じています。菅首相が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、気候変動対策を成長戦略・経済政策とすると言っているのは、まさにゲームチェンジするということだと思っています。国が本当にゲームチェンジをするという意思を示し、企業に大胆な投資を促すためには、2030年のNDCは大胆で、普通にやっては達成が難しい(でも無理ではない)、そして科学や国際社会の要請と矛盾しない分かりやすい水準、つまり50%以上であるべきです。日本政府の強いリーダーシップに期待したいと思います。そして一方の企業人たちは、今の化石燃料依存型の非持続的な経済モデル/ビジネスモデルを、人間の幸せと自然との共生を中心に据えた、脱炭素型の持続的な経済モデル/ビジネスモデルに転換することこそが今の時代の使命だと考えており、私もその一員としてその実現に強く貢献したいと思います。

 

コラム執筆

高野 明彦
株式会社メンバーズ 取締役 専務執行役員 兼 ビジネスプラットフォームカンパニー社長
日本興業銀行(現みずほFG)、新生銀行を経て、2005年に株式会社メンバーズ入社。2006年11月の株式公開を始めとし、リーマンショック後の全社変革プロジェクト、人事制度改革、中期経営計画の策定・実行、ミッション・ビジョンの策定・浸透プロジェクト、東証一部上場(2017年4月)、働き方改革など全社的な重要プロジェクトの推進を数多く担う。

 

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・脱炭素社会の到来に向けた企業のDX
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