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「事業の礎である写真フィルムから次の新しい価値を創出する」 富士フイルムホールディングス:Social Good な企業とその取り組み #62

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脱炭素化が難しい熱エネルギーを製造工程で必要とする素材メーカーでありながら、CO2排出削減(カーボンニュートラル)に果敢に挑む富士フイルムホールディングス。脱炭素社会に向けた、環境課題解決の成果と製品との連携など、独自の取り組みに関してインタビューの機会をいただきました。

  • 創業時から受け継がれたDNAは「環境保全」と「信頼」
  • 再生可能エネルギーの導入とエネルギー利用効率の追求を両軸として取り組む気候変動対策
  • 環境課題解決に貢献する製品・サービスの開発を促進する独自の評価システムを運用

 テキスト

 

<インタビューにご協力いただいた方>

富士フイルムホールディングス株式会社
ESG推進部 環境・品質マネジメントグループ長
中井 泰史 様

<プロフィール>

写真感光材料や写真処理薬品の開発に従事した後、化学物質管理を担当。現在は、気候変動への対応や資源循環の促進などを含め、富士フイルムグループ全体の環境活動の推進を担当。

 

 

●地球温暖化問題をマテリアリティの1つに掲げ、RE100への参加等、積極的に気候変動対策に取り組んでいます。気候変動を、重要な課題として掲げているのは何故ですか?

富士フイルムは企業ミッションの1つに「事業活動を通じた社会課題の解決」を掲げています。環境・社会課題の存在を生活者レベルでも肌で感じる時代になった今、その解決に貢献することは、企業の成長につながると同時に、ミッションを果たすことにもなると捉えています。

自社で排出するCO2の排出量削減のみならず、社会での気候変動を抑制する、また適応する技術の開発や製品・サービスを提供すること、この2つのアプローチが重要であると認識しています。

 

●掲げるミッションや、社会・環境課題解決に向けたそのような考えと姿勢は、社内にも浸透していると感じますか?

富士フイルムグループの創業の原点といえる写真フィルムの製造時には、大量の清浄な水と空気が不可欠であり、また写真フィルムはプリントするまで画像を確認できない、言わば信頼を買っていただく商品です。環境保全とステークホルダーからの信頼は当社のCSRの原点であり、DNAとなっています。

 

●現在の製造工場ではどのような取り組みをしていますか?

気候変動への対応(脱炭素化)、資源循環は、経営にとって今後ますます大きなテーマになると感じています。メーカーとして製造工程で環境負荷を低減することは重要な課題の1つです。気候変動に関しては、当社では調達、製造工程、輸送、製品の使用、廃棄など、それぞれの段階で排出されるCO2を算出し、製品のライフサイクル全体を通したCO2排出量の削減目標を設定しています。特に製造工程では、省エネルギー活動などのエネルギー利用効率向上の取り組みに加え、再生可能エネルギーの導入をグローバルで進めています。

2019年度に、2013年比30%削減の前目標を前倒しで達成し、目標値を引き上げ、現在は2030年までに同45%削減を目標に設定しています。この目標は、パリ協定の目標に対し科学的な根拠に整合した削減率としてSBT WB2℃の認定を得ています。

 

●目標を前倒しで達成しているのは素晴らしい取り組みです。今後のCO2削減に向けて、課題に感じていることはありますか?

富士フイルムグループが使用しているエネルギーは約50%が電力、残りの50%は熱エネルギー用途の燃料を使用しています。ディスプレイ材料など各種高機能フィルムの製造では、製膜や乾燥など一部の製造工程において、工程内を高温に維持するために蒸気が必要となります。そこで、高温蒸気とその他の工程で使用する電力を同時に発生させるコジェネレーション自家発電システムの活用により、生産工程内で高いエネルギー効率を維持しています。

燃料の脱炭素化は、新たなインフラ整備や経済合理性などの課題が多く、電力の脱炭素化より難度が高いと考えられますが、これは高温の工程を用いる素材産業の共通課題だと認識しています。現時点で私たちは、脱炭素燃料としては水素が有力と見ています。2030年までに、まず購入電力の50%を再生可能エネルギーに転換し、2050年までには水素燃料などの使用も通して、事業から排出されるCO2をゼロにすることを目標に取り組んでいます。

 

<富士フイルムグループ 今後のエネルギー構成比推移>
テキスト
富士フイルムホールディングスSUSTAINABILITYREPORT 2020 CSVPストーリー編 より

 

●原材料の調達も含め、様々なサプライヤーが関わっているかと思いますが、サプライチェーン全体での脱炭素化の取り組みはいかがですか?

当社は光学デバイスやオフィス向けカラー複合機、医療機器なども製造していますが、製品の製造工程をサプライチェーンから俯瞰してみると、最終製品に仕上げる最下流は、上流で製造された部品部材の組み立てや組み込みを行う、電力が主なエネルギーとなるプロセスです。

一方で、高熱の環境が必要となるサプライチェーン上流の素材製造工程では、エネルギー効率の高い燃料の使用が適当です。サプライチェーン全体を脱炭素化するためには、電力と燃料の両方を脱炭素化が必要ですが、そのためには社会と行政も含めて広く認識を共有していただくことが重要と考えています。

 

●化学系のメーカーならではの課題がある、ということですね?

RE100に加盟している化学系企業の少なさが、燃料(熱エネルギー)の脱炭素化の難しさを物語っていると思います。当社の2050年カーボンニュートラルに向けたアプローチは、RE100の趣旨に沿った取り組みとして共通の認識が得られたのでRE100に加盟しました。RE100への参加は、私たちの課題認識を社会に広く伝える機会になっていると感じます。同様の課題を抱えている産業セクターや企業と連携し、燃料の脱炭素化を実現するための、建設的な議論を交わしたいと考えています。

 

●RE100に参加をして、他企業の方々との意見交換などは有効だと感じますか?

1社だけでできることは限られていますので、同じ方向性や考えを持った他の企業の皆さまと共創・共働していくことは非常に大切です。RE100やJCLPといったイニシャチブの存在は、そのための大きなチャンスにつながると感じていますし、こういった機会を通じて、国や行政に直接私たちの声を届けることで、脱炭素社会の実現をリードしていきます。

 

●グローバル企業としての立場から、脱炭素化社会に向けた世界の進捗状況や考え方について教えてください。

当社には欧州、米国、中国、そして日本に主な生産工場があり、これら生産工場にグローバルで再生可能エネルギーの導入を進めています。再生可能エネルギー導入の実現性は地域性に大きく依存するため、社会的要因(国・地域の規制、支援制度)と地理的要因を把握 し、再生可能エネルギーの供給安定性や経済合理性などを評価した上で、導入に適した国・地域から順次導入を進めています。

欧州で最も大きなオランダ工場では、すでに風力発電100%で操業しています。2011年に敷地内に風力発電を設置し、2016年には購入する電力も風力発電由来の電力に切り替えました。オランダには地理的条件と社会的環境が共に揃っていたことに加えて、地元のエネルギー企業との共同プロジェクトによる力も大きかったのですが、グループ内の再エネの導入を進める上での良事例として、ナレッジを当社グループ全体で共有しています。

テキスト
FUJIFILM Europe Webサイトより

他にも、米国マサチューセッツ州の事業所や中国の工場に太陽光発電設備を設置、ベルギーにある2つの工場では100%再生可能エネルギーによる電力の共同購入が実現するなど、順次導入を進めています。

 

●海外の再エネ電源の調達コストは日本と比べてどの様な状況ですか?

欧州など地域によっては化石燃料由来の電力よりも経済合理性が有利だという面も含め、再生可能エネルギーの導入に至っています。こうした海外の状況と比べて、日本国内の場合は特に経済合理性の点で難しい側面があることを、グローバル事業を通じて実感しています。

 

●CO2排出量の削減や再エネの導入などを、積極的に進めることによるビジネス・メリットは、どんな点で実感していますか?

富士フイルムグループの創業の原点といえる写真フィルムは、撮影前に試すことができない「信頼を買っていただく商品」です。そのためステークホルダーからの信頼は当社ビジネスの大前提です。地球規模の社会課題である気候変動が深刻化する状況において、脱炭素化に向けた積極的な取組みは、国際的な信頼の獲得に繋がっていると捉えています。

 

●気候変動対策の取り組みの成果は、どのように分析されていますか?

当社の事業に起因するCO2排出の削減のため、製造段階ではコジェネレーションの活用によるエネルギー効率向上や再生可能エネルギーの導入を、調達段階では、原材料の有効活用やリサイクルをグローバルに進めています。また、使用段階では、機器製品の省エネ性能を高めてきました。これらの活動を通じて目標「2030年までに製品ライフサイクル全体のCO2排出量を2013年度比で45%削減」に対し2019年度までに30%削減の進捗です。更なる削減には、今後の事業環境の変化に応じた新しい策を打っていく必要性を感じています。

当社は、製品・サービスを通じた社会でのCO2排出削減への貢献量についても目標を設定しています。貢献量とは、当社の製品・サービスをお使いいただくことにより、従来の製品や方式に比べ削減されるCO2排出量で、SVP2030の目標「2030年までに社会でのCO2排出削減累積量9,000万トンに貢献」に整合して進捗しています。このような製品やサービスは、今後一層社会からの要請が高まるものと考えています。

 

●気候変動を抑制、もしくは適応する製品やサービスとは、具体的にどんなものなのですか?

気候変動の抑制の点で第一に挙げたいのは、デジタルデータの記録装置である磁気テープです。デジタル社会で増加し続ける社会のデータ容量に比例して、データの記録・保管に伴う消費電力も飛躍的に増えると予想されます。データ記録・保管時の電力が不要な磁気テープは、その抜本的な解決策になることから重要度が更に高まるものと考えています。

気候変動への適応では、水処理に活用される高機能なフィルトレーション材料(フィルターにより、粒子やイオンを分離する技術)が該当します。安全な飲料水の供給を通して、国際的な水資源問題に貢献できるような材料として発展すると期待しています。

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●製品づくりにおける、気候変動対策の評価基軸はありますか?

製品の開発において、設計段階で環境価値を評価し、製品として社会に提供する前にその達成度を審議する「環境配慮設計」の仕組みを運用しています。更に「Green Value Products」と呼ばれる独自の認定制度を設け、ライフサイクルを通して環境負荷低減への貢献度の高い製品を認定し、気候変動の課題解決につながる製品やサービスの開発を促進しています。認定にあたり製品ごとに、業界基準の採用や科学的な認定基準を設置することにより、可能な限りの客観性を保ち運用しています。

たとえば、オフィス向けカラー複合機は多くの製品数が認定されていますが、消費電力や消耗材使用量などの各評価基準に対し、業界トップレベルの性能であると自負しています。

 

●環境性能の向上は、消費者にとって製品を選ぶ際の選択基準になっていると感じることはありますか?

 たとえば、撮影したその場で写真プリントが出てくるインスタントカメラの「チェキ」も「Green Value Products」認定製品です。この製品は同等機能を従来より小さいサイズで実現しており、資源の有効活用の点から認定しました。

このような環境負荷の低い製品は、もっと分かり易く開示していかなければと感じています。消費者の皆様にお使いいただく「Green Value Products」認定製品の増加やサステナブルな製品に関するウェブサイトでの情報発信などの取り組みを強化していきたいと考えています。

 

●未来に向けた、富士フイルムの今後の展望を聞かせてください。

事業の礎となった写真フィルムは、さまざまなコア技術の集合体であり、それらの技術を多くの分野に展開してきた経緯があります。そこで、原点であるコア技術を高めることが、次の発展につながると考えています。私たちが磨き上げた独自の技術や社外の技術を組み合わせたオープンイノベーションにより創出される新しい価値として、気候変動対策として展開できる技術や製品も生まれると期待しています。

環境課題の解決に貢献する製品やサービスをさらに生み出し、それらを通じて社会に貢献する、社会に価値を提供することが、メーカーとしての大きなミッションであり、責任であると感じています。

 

 

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萩谷衞厚

萩谷衞厚

株式会社 メンバーズ
EF室 CSVデザイン
人間中心設計(HCD)スペシャリスト
日本マーケティング学会会員 サステナブル・マーケティング研究会 事務局
環境エンジニア2級

新卒入社の外資系コンピューター会社を経て、2000年より、コールセンター・CRMコンサルティング・ファーム 株式会社 テレフォニー(現 株式会社 TREE)に在籍。コールセンター構築や顧客戦略のコンサルティング業務に関わりながら、2007年以降は、環境映像Webメディア Green TV Japanの立上げ・運営に従事。メディア運営と併せて、経済産業省や環境省、文部科学省の環境に関連する政府広報や省庁プロジェクトに関わる。
前職の事業譲渡に伴い、2015年5月より、株式会社 メンバーズの100%子会社 株式会社 エンゲージメント・ファーストに在籍。Shared Value Agency®として、大手企業を中心に、様々なCSV推進プロジェクトに関わり、現在に至る。
茨城県日立市出身、人間中心設計(HCD)スペシャリスト、日本マーケティング学会会員、環境エンジニア2級
『UX × Biz Book 顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン』(共著)

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