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【セミナーレポート】「資本主義の非物質化」、「製品サービスのデジタル化(DX)」と脱炭素化(本編・講演パート)

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メンバーズでは脱炭素社会の実現に向けて、お客さま企業向けの勉強会を開催しています。
2020年12月上旬の勉強会に引き続き、京都大学大学院 教授 諸富 徹氏をお迎えし、勉強会を開催いたしました。今回の勉強会では、DXと脱炭素化の繋がりについてお話いただきました。本コラムでは、諸富氏の講演内容のまとめ、質疑応答編では参加者のみなさまから当日寄せられた質問への回答を紹介します。

■当日のご講演資料とアーカイブ動画は本コラムの最後でご案内しております。

目次
1.登壇者さま紹介
2.現代資本主義の変貌
3.非物質主義的転回が進む社会
4.資本主義の非物質化と経済成長
5.日本の産業国際競争力の低下要因は何か
6.無形資産投資の重要性を理解できなかった日本企業
7.「製造業のサービス産業化」と日本の製造業の将来展望
8.脱炭素化と炭素生産性 ~経済成長と脱炭素化のつながり~
9.カーボンプライシングは産業構造の転換を促す
10.「製造業のサービス化」をともなう産業構造転換と脱炭素化の糸口

 

1.登壇者さま紹介

京都大学大学院 教授 諸富 徹氏

環境経済学の専門家。特に環境税、排出量取引制度など気候変動政策の経済的手段(カーボンプライシング)の分析や、グローバル経済/デジタル経済下の税制改革といったテーマに取り組まれる。直近では、資本主義が脱炭素化/デジタル化に向けて変容していく中で、市場と国家のあり方はどうあるべきかを問う研究もおこなっている。

著書:『資本主義の新しい形』(岩波書店,2020年)

 

2.現代資本主義の変貌

21世紀の資本主義では経済の長期停滞がおきています。
長期停滞には2つの理由があります。

①企業の内部留保が進み、投資が減っている
②第3次産業革命以降、生活革命に繋がる大きなイノベーションが起きていない

①企業の内部留保が進み、投資が減っている
現在の企業は資金の借入部門から貯蓄部門に変化しています。企業の投資額は減少し、内部留保として企業内に貯蓄する資金が増加しています。特に、日本企業は内部留保が高まり、現預金の額は200兆円に達しています。日本ではバブル前後に大きな設備投資が行われていました。しかし、バブル崩壊やリーマンショックで投資額が下がり、その後回復しましたがバブル期の投資額には戻れていません。また現在の投資は既存の設備を回復・維持するための投資であり、新規投資はあまり行われていない状況です。このように投資ができていない状況が経済の停滞に影響していると考えています。日本企業において投資が進まない理由としては、アメリカ的経営方針の導入により、株主への配当金が高まり、企業の資金が配当に充てられるように変化したことが考えられます。

②第3次産業革命以降、生活革命に繋がる大きなイノベーションが起きていない
アメリカの経済史家ゴードンによると、第3次産業革命以降、TV・エアコン・洗濯機のように、発明の以前と以後を分かつ画期的な革新が起きていません。もちろんITやスマホの登場で利便性は向上しましたが、エアコンなどが登場したときのような爆発的な需要増加は起きていません。そのため現在ではものの売れ方に限界が生じ、ものづくりで利益を得ることが難しくなってきていると言えます。このことが先進国の経済成長の低下傾向に拍車をかけています。

 

3.非物質主義的転回が進む社会

1950年ごろから資本主義はものづくり中心から、サービス・知識が中心になると言われてきました。この変化を「知識産業」や「脱工業化」「ポスト資本主義」などと呼び、今回の勉強会では非物質主義的転回として扱っています。

非物質主義的転回が進む社会では、大きく3つの変化が起きています。

・人々はものに機能以上の価値(ブランド、デザイン、安全性)を求めるようになる
・生産側はものに付加価値をつけるために必要な知識やデザインを生み出すために投資する
・デザインやビジネスモデルのような無形資産が製品の価値を向上させる

これまでの研究開発は、素材の質を向上するための研究が中心でしたが、新しい知識を生み出すための研究開発への投資が増えています。また新しい知識をどのように製品開発や製品の価値向上に繋げるかが課題となり、課題を解決するデザインやビジネスモデルは「無形資産」と呼ばれ、知的財産として保護されるようになりました。

アメリカの投資額の推移では、有形資産投資が下がり、無形資産投資は上昇しています。無形資産投資として、情報化資産(ハードウェア・ソフトウェア)や社会科学に関する資産(人・組織)、芸術に関する資産(デザイン・映像)への投資が進み、活発な研究開発が行われています。特に無形資産となる知識を生み出すのは人であり、人々が協力するための組織をつくることが大切だとする考え方から、人的資本や組織構造への投資が増加しています。一方、日本はアメリカとは異なり、無形資産への投資は停滞しています。

 

4.資本主義の非物質化と経済成長

結論として無形資産化、非物質化は経済成長を促進すると考えています。
投資が有形から無形に向かい、アメリカではGAFAのような無形資産を中核とする産業が台頭しています。また韓国では、無形資産集約産業は、有形資産集約産業よりも成長率が高く、無形資産集約産業の成長率は1981~1990年の36.7%から、2001~2008年の65.2%へとほぼ倍増しています。一方で、有形資産集約産業は35~38%でほぼ変化がない状況です。多くの実証研究からも無形資産を重要視する経済構造になると経済が成長すると考えられています。

ドイツでは、ソフトウェアやデータベースの投資が最も活発に行われています。また研究開発への投資も増えています。反対に機械や建設などの典型的な製造業への投資は減少しています。ドイツでも無形資産への投資が増えることで、産業構造の転換が起こり、経済成長を促す波及効果を出しています。

産業構造が有形資産から無形資産に変化すると、経済政策の重点も変化が起きます。研究開発に投資するかどうかが競争力を左右することになります。また知識を生み出し、活用する人材の質を高めるための人的資本投資や、研究開発の成果を管理・活用していくための組織構築への投資が重要となってきます。

それでは、なぜ日本企業では無形資産への投資が進まないのでしょうか?

理由として、競争の土台が変化したことを正確に理解できず、従来日本が得意としていたものづくりで対処しようとしたため、非物質化に適合的なビジネスモデルへの転換を果たすことができなかったからではないかと考えています。

 

5.日本の産業国際競争力の低下要因は何か

日本のものづくりの競争力が低下する要因として3つの理由があります。

①製造業の労働生産性が低下
日本は90年代まで世界でもトップの労働生産性でしたが、年々低下しています。

②ROA(総資産利益率)が低い
資産に対してどれだけ利益を生み出しているかを表すROA(総資産利益率)は、アメリカ・ドイツと比較し日本が一番低くなっています。

③設備ビンテージが高い
日本は設備の古さを表す設備ビンテージが高くなっています。投資が行われず設備更新が滞ることで、中国など最新鋭の設備を導入する企業が現れ、日本の競争力が低下しています。

 

6.無形資産投資の重要性を理解できなかった日本企業

アメリカをはじめとして、有形資産から無形資産への投資に転換が進む中、日本は何に投資するべきかがわかっていませんでした。日本でも投資するべき対象はありましたが、従来型のものづくりに執着する経営者には、「投資の非物質化」という構造変換が理解できていませんでした。その結果、無形資産を中心とするビジネスモデルの変革に遅れ、市場を失うことに繋がったと考えています。
必要な無形資産投資は3つあります。

①ソフトウェアやデータベースなどの「情報化資産」投資
②研究開発などの「革新的資産」投資
③経済的競争能力に繋がるブランド資産や人的資本への投資

特に日本は人的資本投資が各国と比較し、とても少なくなっています。またICT投資の位置づけも、日本と他国では異なっていました。日本ではICTを業務を効率化させるものとして捉えていましたが、アメリカではGAFAを筆頭に、ICTは新しい価値を創出するものとして捉えました。その結果GAFAではビジネス革新や新しいビジネスを生み出すためのツールとして、ICTを活用することができています。

 

7.「製造業のサービス産業化」と日本の製造業の将来展望

日本の製造業は各国同様にサービス化していますが、まだ各国と比較すると製造業を含む第2次産業は高い水準となっています。無形資産を中核にすえてビジネスを進める上で、無形資産の価値がサービスとして提供されるようになります。また無形資産を中心としたビジネスモデルへの転換は、ものづくり中心の産業がサービス産業へと転換することに繋がります。

企業において重要なものがものづくり能力から顧客情報へと変化していきました。顧客の製品サービス利用方法などを、顧客と継続的な関係を気づくことで把握し、顧客が満足するためのサービスを提供することが必要となります。今後ICTは付加価値となる顧客情報を起点としたサービスを提供するために活用する必要があります。

製造業からサービス業への転換に取り組む企業を4社紹介します。

今までサービス業のデジタル化が議論されてきましたが、4社のように製造業こそデジタル化でサービス産業にシフトする必要あると考えています。

 

8.脱炭素化と炭素生産性 ~経済成長と脱炭素化のつながり~

多くの国で、脱炭素化とデジタル化は車の両輪のように進むことが可能であると議論されています。これまで環境対策はコスト負担だと思われていましたが、経済成長と環境対策は結びつくという認識が広まってきました。炭素量とGDP成長率の関係を表す炭素生産性を国際比較すると、日本の炭素生産性は労働生産性と同様に低下しています。炭素生産性が上昇するためにはGDPを成長させるか炭素排出量を減らすか、もしくはその両方を行うことが必要となります。他国ではCO2排出量は下がり、GDPは上がるという「デカップリング」が起こり、炭素生産性を上昇させています。また他国では2つの傾向が見られます。

・実行炭素価格※が高い国は、炭素生産性も高くなっている
・実行炭素価格が高い国は、一人当たりの投資価格が高くなっている

※実効炭素価格(Effective Carbon Rates):OECDは、炭素税、排出量取引制度、エネルギー課税を合計した炭素価格を「実効炭素価格」として、2012年4月現在における各国の比較・評価を行っている。なお、我が国の温対税(炭素価格289円/CO2トン)は導入前で含まれていない。

 

9.カーボンプライシングは産業構造の転換を促す

日本ではCO2排出量の削減とGDP成長を両立するデカップリングが起きていません。
その理由として日本の経済成長が停滞する理由と同様に、産業構造が無形資産を中心としたビジネスモデルへ転換できていないことが考えられます。デカップリングが起きている他国では、高いカーボンプライシングを導入することで産業構造の転換が起こり、炭素生産性も上昇しています。

例えば日本より高価格のカーボンプライシングを導入しているスウェーデンでは、重化学産業からデジタル化された知識産業に転換が起きています。後者はCO2排出が少なく、生産性も高い産業です。スウェーデンにはVOLVOのような主要な重化学産業もありますが、IKEA、H&M、Spotify、Skypeなどの新興企業が次々と現れています。スウェーデンは産業構造の転換が柔軟に行われる経済システムとなることで、より高い付加価値の創出とCO2排出量の削減が同時に可能な社会となっています。このようにカーボンプライシングは産業構造の転換を促す誘導役となります。

 

10.「製造業のサービス化」をともなう産業構造転換と脱炭素化の糸口

今後日本は製造業のサービス化にむけて産業構造の転換に取り組む必要があります。
そのために3つのことが大切だと考えています。

①カーボンプライシングを産業構造転換の誘導役として活用する
②今までの通念とは異なる、「環境と経済は両立が可能である」という考えを受け入れる
③デジタルトランスフォーメーション(DX)と日本の強みであるものづくりを活かし、サービスで付加価値をつける

バイデン政権に変わったアメリカ、世界最大のCO2排出国である中国も脱炭素化に向けて取り組んでいます。現在世界中に広がっているコロナウィルスは、もちろん危機ではありますが、今までの経済を急速に変化させるチャンスともなります。日本でもデジタル化と脱炭素化を進めることで経済を成長させていく必要があります。

私たちは今新しい経済成長に繋がる分岐点に立っているのではないでしょうか?

 

以上がセミナーの内容となります。

本セミナーの資料/アーカイブ動画は、下記よりご覧いただけます。

京都大学大学院 教授 諸富徹氏にご登壇いただき、ビジネスと環境問題をテーマに、脱炭素×DXは並行して取り組むべき課題であることを各種データをもとに解説いただきました。
講演資料はこちら/講演動画はこちら

 

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<コラム執筆>
石川碧
EMCカンパニー EMC推進室 マーケティング&コミュニケーショングループ
2020年にメンバーズへ新卒入社。顧客向け勉強会の企画や自社サイトの運用業務を担当。社内のサービス・取り組みについてのコラム執筆にも挑戦中。