今年創業60周年を迎え、日本を代表する住宅メーカーは、環境経営やESG経営を積極的に進めるリーディングカンパニーと言えます。
今回は、事業と直結した環境戦略に関して、積水ハウスさまにインタビューの機会を頂きました。
- 環境戦略と事業戦略の一体化により、CO2排出削減とビジネス成果との両立を実現。
- 企業ビジョンは、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」
- オーナー様との再エネ活用の取組みは、まさに、脱炭素社会に向けた共創事業である。
<インタビューにご協力頂いた方>
積水ハウス株式会社 常務執行役員 環境推進担当 石田 建一 様
<プロフィール>
1957年東京都生まれ。85年 工学院大学大学院博士課程修了、積水ハウス入社。東京設計部、商品開発部、ICT推進部などを経て、2002年ICT推進部長、2006年 温暖化防止研究所長、2011年 環境推進部長兼温暖化防止研究所長、2012年 執行役員、2016年4月から現職。
●RE100※への参加を日本企業としては早くから表明しています。初めに、気候変動対策に積極的に取組む理由を教えて下さい。
積水ハウスの基本的な考え方に、お客さまの「幸せな人生」を提供するという基本的な考え方があります。それは、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」という企業ビジョンに基づいています。
幸せに暮らすには、住まいに、健康・快適・安全・安心が求められます。住宅1軒単位では、高いレベルでこれらの要素を実現してきましたし、東日本大震災等の大規模災害でも実証されてきました。しかし、異常気象下では、私たちは幸せに暮らすことは出来ません。企業ビジョンである幸せな暮らしを提供するためには、気候変動を防止する必要があります。
そして、住宅は、家電や自動車と比べても耐久性が最も長い商品です。つまり、50年、100年とサポートする必要があります。サポートするには、積水ハウスも100年、住まいの事業を継続する必要がありますし、事業を継続するためには、社会から必要とされる企業になる必要があります。
住まいに関わる事業は社会的な意義が高い事業ですので、儲けるだけではダメだと思っています。
※RE100:再生可能エネルギー100%で事業活動を行うことを宣言をした企業が参加するグローバルでのイニシアティブ。参加企業は、2050年までに事業活動に使用するエネルギーを、再生可能エネルギーで100%調達することを目標に掲げる。
●そうした考えが企業文化としてあったのですか?
私たちの企業哲学は「人間愛」です。SDGsもその根幹は、人権の実現です。そういった意味では、私たちの考え方はSDGsと合致しています。
また、SDGsの実現には、CSRとCSV※(Creating Shared Value)があると考えています。私たちは、社会的責任のためだけではなく、CSVとして、新しい価値を創ることが重要であるという、強い意志で臨んでいます。
※CSV:共有価値の創造(Creating Shared Value)、企業による経済利益活動と社会的価値の創出(=社会課題解決)を両立させること、及び、そのための経営戦略のフレームワーク。
●以前から様々な環境活動にも積極的に取組んでいます。
スウェーデンのグレタさんは、「あなたは子どもたちの未来を盗んでいる」と発言しています。つまり、環境は未来から借りものであり、それぞれの世代がきれいにして返す必要があります。そうした考えに基づいて、1999年に「環境未来宣言」をしました。未来に対する責任を果たしたい、世代間の不公平を解消する必要があるということです。
「環境未来宣言」では、気候変動・地球温暖化防止、生物多様性、資源循環の3点に取組むことを決定しました。また、京都議定書が発効された2005年には「サステナブル宣言」をしています。持続可能な社会を経営方針にして、提供する商品は全て、京都議定書を順守すること、つまり、1990年比でCO2排出量 マイナス6%削減に転換することを宣言しました。
2008年には、住宅のライフサイクルで、CO2排出をゼロにするという、「2050年 脱炭素宣言」をしています。日本企業で脱炭素宣言をしたのは、日本企業では初めてででしょう。
●「2050年 脱炭素宣言」は、IPCCが求める1.5℃目標と合致します。今から10年以上前に、なぜそうした宣言が出来たのでしょう?
正しく未来を予測し、他社よりも早く戦略を立てることが事業には必要です。全て世の中の動向を見据えて準備をしてきたからこそ、2008年時点で脱炭素宣言が出来たと思います。
世界全体で、CO2の約4割が建物から排出されていますので、住宅事業は社会的影響力もとても大きいのです。だからこそ、緑の地球環境が一番であることをコンセプトに、「グリーンファースト」を掲げ、2009年にCO2 50%以上削減、2013年には、ゼロエネルギー住宅の販売をスタート出来たのだと思います。
2017年には、業界初、日本企業で2番目となりますが、2040年に再エネ100%とする、RE100宣言をしました。その後も、2018には、SBT認定、非金融系企業では初となるTCFDに賛同してます。2019年末にはTCFDのレポート発行を発行しており、これも非金融系企業では初となります。
●事業を通して、脱炭素化の具体的な成果を教えて頂けますか?
2019年度の新築戸建て住宅のゼロエネルギー住宅(以下、ZEH:Net Zero Energy House)比率は、87%、これまで、累積で5万棟以上を販売してきました。大手企業では、恐らく世界一でしょう。
また、お客さまのライフスタイルに合わせた住宅のデザインに私たちはこだわっています。2003年からは、すでに瓦型のソーラーパネルを開発したり、庭を楽しめる様に、断熱された大きな窓を積極的に取り入れています。ZEHは、将来、どの住宅メーカーでも標準化されるでしょう。そうなった時でも、デザインや住み心地の良さで差別化できる取り組みをしています。その結果、2019年のCO2排出量は、1990年比で、80%以上削減することができました。
今後は、ZEHの賃貸集合住宅の市場を創りたいと考え、2018年に日本初のZEH賃貸住宅を作りました。2022年には、断熱効果の高い真空ガラスや全住戸燃料電池を採用したZEHの36階建てのタワーマンション(グランドメゾン上町一丁目タワー)も竣工予定です。
そして、私たちが最も重視する考え方は、環境戦略は事業戦略と一体化しているということです。リーマンショックの2010年以降、CO2排出削減率を高めながら、営業利益率を高めています。
積水ハウス Webサイトより 「グランドメゾン上町一丁目タワー」
●お客さまの住宅選びの際の環境への意識の変化は感じますか?
私たちのお客さまは、中高所得層が中心となりますが、環境に良いものを選ぶ傾向をお持ちです。台風や自然災害の規模が年々甚大化する中、気候変動や地球温暖化に対する関心や環境への意識も高まっています。
アメリカの調査では、20代後半から30代半ばのミレニアル世代と呼ばれる層の3/4は、新築購入時に環境配慮を重視するとの調査結果も出ています。日本もその傾向がより高まることでしょう。
●気候変動対策としては、オーナー様との共創による再エネの取り組みも進めています。
RE100の早期達成のため、積水ハウスオーナーでんき という、積水ハウスのオーナー様と連携した取り組みを積極的に進めています。
固定価格買取制度の適用が終了することにより、多くのオーナー様に余剰分の電力が生じることになります。そうした電力を業界最高値で買取り、積水ハウスの事業所や工場で消費させて頂くのが、積水ハウスオーナーでんき の仕組みです。
私たちは、これまで、オーナー様の住宅に、年間発電量700GWh以上の太陽光パネルを設置してきました。一方で、私たちが事業で使用する年間の電力消費量は、120GWhとなります。つまり、お客さまが発電した電力の約2割を買い取ることが出来れば、再エネ100%に転換することが出来ます。
積水ハウス Webサイトより
●お客さまを継続してサポートするという姿勢があって、常にお客さまとコミュニケーションしていたからこそ、実現できた事業です。
事業としてではなく、全てオーナー様へのサービスとして行っていますが、今では、6,500件以上のオーナー様に加入頂いています。
この仕組みの特徴として、弊社は、RE100の目標を達成するために、コスト増にはなっていない事が挙げられます。オーナー様と私たち、両者にメリットがある仕組みを作りました。オーナー様と一緒にRE100の活動を進めていると言えるでしょう。まずは、買い取った電力で住宅展示場での再エネ化を進めていますが、展示場でも再エネ普及の重要性をお客さまにお伝えしています。
●生物多様性保全の取り組みも2001年当初から、共感性の高い 「5本の樹」計画を積極的に発信しています。
「3本は鳥のために、2本は蝶のために。」をメッセージに、日本の在来種にこだわり、住まいの中にも生態系をつくることを目指しています。植物と野鳥の関係を紹介するオリジナル冊子の制作やスマホを活用した野鳥ケータイ図鑑も提供しています。
最近は、年間約100万本の植樹を行い、これまでに1,600万本を達成しています。外構造園事業の売上は600億円以上に上り、実は日本一の外構造園業です。こうした取組みは、事業にとっても良い影響を与えています。つまり事業でプラスにならなければ、サステナブルな取組みとして継続することはできません。
新型コロナウイルスで企業の経営環境が厳しくなる中、真のサステナブル企業かどうかが問われていると思います。ZEHの販売も庭に植樹をすることも、環境にも良くて、事業にも貢献するということです。繰り返しになりますが、環境戦略と事業戦略とが一体となることが非常に重要です。
●資源循環の観点から、環境省が進めるプラスチック・スマートにも参加しています。
事業により出た廃棄物は、工場で最大70分類、住宅建設現場で27分類することにより、100%の再資源化を進めていますが、プラスチックのリサイクルは、2019年度で、19,000トンになります。
また、2018年からは、社内の自動販売機からはペットボトルや会議でもペットボトル配布も無くし、昨年度は、年間37万本のペットボトルを削減しています。国内のペットボトルの流通量に比べればわずかな量ですが、こうした取り組みは、飲料メーカーへの脱プラスチック社会実現に向けたメッセージになる、そう考えています。
こうした環境戦略を進めることにより、ESG企業としてグローバルで評価されています。投資家も含めて、世の中を良くしていこうという流れがありますが、私たちは、そうした要請に応える必要があります。
●様々な環境戦略の取り組みが事業戦略と一体化していることが理解できました。
新型コロナウイルスは、今の行動が2週間後の感染者数に影響すると言われています。気候変動もこれまでの私たちの行動が、気温の上昇や自然災害を引き起こしています。新型コロナウイルスの影響に向き合い、気候変動対策を進めることにより、これからは、家にいる時間が長くなり、これまで以上に住宅の省エネが重要になります。
温暖化対策を進めていく中で、近い将来、ZEHは義務化されるでしょう。そうなった時に、ZEHでない物件は資産価値が下がるかもしれません。私たちの取り組みは、お客さまの資産を守り、快適で環境にも配慮した住宅を提供していると言えます。
冒頭で述べた通り、お客さまを幸せにすること、そして、これからも環境戦略はビジネスであることを基本として事業を進めていきます。私たちの「今」の行動を変えることで、「未来」をより良いものに変えたいのです。
Social Good な企業とその取り組み
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CSV企業戦略コンサルティングサービス
「意義あるよい事(Social Good)」を、企業・顧客・関係者との共創(エンゲージメント・マーケティング)により、マーケティング革新を起こし、社会課題の解決とビジネス目標の達成を実現します。
関連情報
インタビュアー・テキスト
萩谷衞厚
株式会社 メンバーズ
EF室 CSVデザイン
人間中心設計(HCD)スペシャリスト
日本マーケティング学会会員 サステナブル・マーケティング研究会 事務局
環境エンジニア2級
新卒入社の外資系コンピューター会社を経て、2000年より、コールセンター・CRMコンサルティング・ファーム 株式会社 テレフォニー(現 株式会社 TREE)に在籍。コールセンター構築や顧客戦略のコンサルティング業務に関わりながら、2007年以降は、環境映像Webメディア Green TV Japanの立上げ・運営に従事。メディア運営と併せて、経済産業省や環境省、文部科学省の環境に関連する政府広報や省庁プロジェクトに関わる。
前職の事業譲渡に伴い、2015年5月より、株式会社 メンバーズの100%子会社 株式会社 エンゲージメント・ファーストに在籍。Shared Value Agency®として、大手企業を中心に、様々なCSV推進プロジェクトに関わり、現在に至る。
茨城県日立市出身、人間中心設計(HCD)スペシャリスト、日本マーケティング学会会員、環境エンジニア2級
『UX × Biz Book 顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン』(共著)
CSV担当者向け資料
CSV企業インタビュー冊子
【無料進呈】ファクトリエ/オイシックス・ラ・大地/ネスレ日本/セブン-イレブン・ジャパン/キリンホールディングス/良品計画/シチズン時計/クレディセゾン/ANA X/日立製作所ほか