JNTO(日本政府観光局)の統計データによると、2018年訪日中国人は約838万人と訪日客の約27%を占めた。彼達が訪日中に多く購入するのは化粧品、日用品である。各化粧品メーカーは競合を勝ち抜く為に、どのような対策を講じるべきか?
私は中国出身であり、本コラムでは中国化粧品業界レポートを参考に、既に中国に進出した資生堂とロレアルの現地プロモーション事例を交えて、解析してみる。
目次
1.中国における化粧品業界の概況
2.資生堂とロレアルの事例分析
3.まとめ
1.中国における化粧品業界の概況
サマリー:
・2017年の化粧品注目ユーザーは昨年比0.6%増、ほぼ飽和状態。そのうち、モバイル利用者の割合が増加傾向。
・化粧品に関する主な注目コンテンツは「製品情報」「ブランド」「口コミ」となった。
・海外ブランドの市場浸透が進み、美容器具の成長が特に際立った。
・中国人個人の購買力が上がり、ハイブランドへの注目が高まった。
●化粧品業界動向
化粧品業界動向2017年化粧品業界への注目度は昨年比0.6%微増、市場がほぼ飽和状態となったと考えられる。
●化粧品業界動向(モバイル市場)
2018年3月モバイル検索の割合は昨年比87.7%増、情報収集のモバイル化が進んた。
●化粧品業界における注目コンテンツ
最も注目されたコンテンツは「製品情報」、「ブランド」と「口コミ」であった。個人購買力の上昇を背景に、価格に敏感な消費者が減少し、製品機能面への注目度が上昇したと考えられる。
●化粧品カテゴリーごとの動向
2017年美容器具への注目度が昨年比64.8%増、伸び率が最も高い。一方、香水やボディミスト及びボディケアへの注目度は減少した。
●洗顔器と美容器の市場動向
美容器具市場を牽引したブランドは洗顔器のFEREOと美容器のRefaであった。
●化粧品ブランド原産国の動向
約8割の注目ブランドが海外ブランドであり、主にアメリカ、韓国、フランスと日本であった。
●スキンケア商品カテゴリー別の注目度
スキンケア用品の中で、顔全体のお手入れ用品が最も注目を浴びていて、全体の7割を占めた。顔全体のお手入れ用品の中では、フェースマスクへの注目度が最も高かった。
●コンセプトカラーへの注目度
メイクアップ用品に関しては、コンセプトカラー(※1)と呼ばれるメイクの色への注目が急増した。最も注目度が高いカラーは「生理色」(※2)であり、次いで「メンキラー(男を誘惑する)色」と「人魚色」であった。
(※1)コンセプトカラー:
自然の用語を用いた一般的な名づけ(ローズ色、チェリー色等)と異なり、コンセプトカラーの名づけはより日々の生活に近く、ストーリー性を持たせたものとなっており、人気を集めている。ほとんどのコンセプトカラーはユーザーが勝手につけたもので、企業自体が利用することが少ない。
(※2)生理色:ディープレッドカラー。
メンキラー:アズキカラー或いは男から見ても抵抗がないカラー。
人魚色:ローズピンクカラー。
レポート調査対象ユーザーのデモグラ
※調査対象:化粧品に興味を持っているユーザー。
●ユーザー属性
※ピンクグラフ:化粧品 青グラフ:メンズ化粧品
化粧品に関心のあるユーザーは19~34歳に集中していて、大学学歴以上の割合が高かった。
●ユーザーのオンライン行動傾向
※ピンクグラフ:化粧品 青グラフ:メンズ化粧品
化粧品に関心のあるユーザーは「SNSコミュニティ」、「EC」、「ゲーム」と「新聞ニュース」などのネットコンテンツにも興味を示した。
●ユーザーの所在地
化粧品に関心のあるユーザーは中国東部と西南部に集中していった。
2.資生堂とロレアルの事例分析
まず、2社中国現地のSNS、サイト及びECモールの状況を下記図にまとめた。
※2社とも自社傘下の人気ブランドの専用SNSアカウントを運営されているが、上記図では省略。
2社共通して、各SNSチャンネルにおいて、多数アカウントを運営し、より顧客との接点を多く持つように取り組んでいる。このように多数チャンネルに渡ってアカウントを運営することには以下のメリットがあると考える。
- オンライン上でのユーザー獲得が年々難しくなる中で、多チャンネルの複数アカウントの運用は顧客との接点を増やすことができ、より多くのユーザー獲得が期待できる。
- ジャンルごとにアカウントを開設し、運営しているため、精度の高いターゲティングの運用ができる。
- 運用違反によってアカウントが封印された際のリスクを回避できる。
次に、ユーザー注目度を図るためBaiduで2社ブランドの検索状況は以下通りであった。
資生堂:
データ集計期間:2018年1月1日~2018年12月31日
出典:Baidu指数
年間を通じて、検索ボリュームがある程度安定していたが、3月8日婦人の日(B)と10月25日(G)の検索量が多く見られた。3月8日と10月25日検索量急増の要因を追及する為に、中国版Twitterと呼ばれるWeibo上で当時の投稿を遡ってみた。
3月8日前後「資生堂」をキーワードにした人気投稿のピックアップ:
出典:Weibo投稿
中国で3月8日は婦人の日であり、女性の買物の日とも言えるほどのビジネス商戦がある。資生堂はオンラインとオフライン店舗での集客キャンペーンを実施した。
10月25日前後「資生堂」をキーワードにした人気投稿のピックアップ:
出典:Weibo投稿
出典:Weibo投稿
10月25日の検索量に多く貢献したのは同社がハロウィン向けに作られたCM「The Party Bus」が話題になったことだと考えられる。感動のラブストーリーと映画に負けない制作クオリティーは多くのハロウィン広告の中で際立っていた。
ロレアル:
データ集計期間:2018年1月1日~2018年12月31日
出典:Baidu指数
ロレアルは8月20日(D)の検索量が急増した。次いで、11月11日(F)のビッグ商戦時の検索量も多かった。
8月20日前後「ロレアル」をキーワードにした人気投稿のピックアップ:
出典:Weibo投稿
出典:Weibo投稿
8月20日は注目度急増の新星俳優「朱一龙」をCXO(Customer Experience Officer)に起用したことは話題として広がった為、検索量が勢い良く伸びたと考えられる。
以下は私の中国向けプロモーションの考えである。
2012年中国のモバイルユーザー数が初めてPCユーザー数を超えた。以降、ビジネスでのモバイル化の傾向が加速して、人々を繋げるソーシャル時代を迎えた。同時に、一般人は企業や媒体と同じように情報配信が可能となり、溢れた情報の中で、ユーザーの注目度をどう担保するかが大きな課題となる。
プロモーション成功の鍵は「話題作り」であると私は考えている。商品の繋がっている線の中で話題要素の点をピックアップし、トレンドに合わせて有効なチャンネルとコンテンツ形式を選定すれば効率的なプロモーションができるのではないかと思う。
- 商品の話題要素:点にフォーカスすることがポイントである。単一商品の場合、商品それぞれ優れた機能をまとめて紹介するより1~2つの代表的な機能を紹介すること。複数商品を取り扱っているメーカーの場合、全商品の紹介より1~3つの代表的な商品を紹介すること。
- チャンネル:WeChatやWeiboなど代表的なSNSのほか、KOLであったり、俳優であったり、自社スタッフであったり、他社コラボであったりするなど、一つのチャンネルをとことんやりきるより、あらゆるリソースを調達し、素早くPDCAを回しながら試行錯誤を行うことが大事。
- コンテンツ形式:記事だけではなく、動画や生中継、音声、オフラインイベントなど様々な形式を活用し、ユーザーとあらゆるシーンで接点を持たせるように取り組むことが大事。
上記の考え方の基でもう一度資生堂とロレアルの事例を見てみると、
- 資生堂の「婦人の日」プロモーション:
商品の話題要素:化粧品=女性 を意識して「婦人の日」に実施
チャンネル:KOL
コンテンツ形式:Weibo投稿、オフラインイベント
- 資生堂のCM広告「The Party Bus」:
商品の話題要素:女性の繊細の気持ちをメイクで表現できる。
チャンネル:Weibo、bilibiliとその他動画プラットフォーム
コンテンツ形式:ショートビデオ
- ロレアルの新星CXO:
商品の話題要素:初心忘れずやりきるブランド力
チャンネル:そのブランドイメージと相性の良い新星俳優
コンテンツ形式:Weibo投稿、オフラインイベント、生中継放送
デジタルマーケティング戦略を立てる際に、「商品の話題要素」「コンテンツ形式」「チャンネル」3つの要素のほかに、検討すべき要素はあるが、最低限でこの3つの要素を把握する必要があるでしょう。毎回のプロモーションの後で、データを分析し、最適な組み合わせを見つけるようにPDCAを回して、次回のプロモーションプランニングに繋がる工夫も当然不可欠である。
3.まとめ
今回は中国化粧品業界の概況と現地進出企業の事例について解析してみた。
本コラムを通じて、以下2点を押さえて頂きたいです。
- 2017年中国のビジネスでのモバイル化は加速傾向。化粧品業界においで、ユーザーの注目コンテンツは「製品情報」、「ブランド」と「口コミ」であった。また、「フェイスマスク」、「クリーム」と「エッセンス」などの商品への注目度が高かった。
- 資生堂とロレアルの事例から見る共通点:ユーザーとの接点を多く持たせるように各SNSチャンネルごとに多数アカウントを運用。また、両社事例から見て、「商品の話題要素」「チャンネル」「コンテンツ形式」3つの要素を最適化することによって、話題を広げることができ、結果効率的なプロモーションができる。
コラム執筆
株式会社メンバーズ 張碩(チョウ セキ)
2012年入社。グローバル&インバウンドマーケティング部署に所属。
インバウンド担当者向け資料
UX・デジタル大国”中国”の今を知り、活かすために~中国現地のアプリ調査から~
テクノロジーやマーケティングに関する先進的な事例を欧米諸国から得ていた時代から、今は中国に学ぶべき時代といっても過言ではありません。フィンテック、シェアリングエコノミー、信用スコアなど、主に都市部では社会そのものがデジタルイノベーションによって変革され、生活の質や環境が様変わりしています。中国現地のアプリ20社の調査から見えてきた、顧客体験デザインの重要性とデジタル活用の最新事例をご紹介します。
カテゴリ: SNS, グローバル, Web広告, 微信、百度、新浪微博, マーケティング, コンテンツマーケティング
2019年03月29日