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ネスレ日本<CSV企業事例、CSVマーケティング>:Social Good な企業とその取り組み #14

150年以上の歴史を持ち、世界190カ国以上でビジネスを展開する世界最大の食品飲料会社ネスレ。創業以来、世界中の様々な社会問題を製品やサービスを通して解決してきました。

そして、2012年から日本発のサービスとしてスタートしている「ネスカフェ アンバサダー」。その取り組みは、まさに私たちのコミュニティや職場環境等でのコミュニケーションを促進するという、社会問題解決を起点としたイノベーションとも言えるサービスでした。「ネスカフェ アンバサダー」の応募数は、全国約40万人となり、今も拡大しています。

この度、ネスレ日本 ステークホルダーリレーションズ室長にそれらの取り組みを中心に、貴重なインタビューの機会を頂きました。是非、ご覧下さい。

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※Nestlé Globalサイトより

 

エンゲージメント・ファーストでは、経済的価値と社会課題解決の両立を図るCSV(Creating Shared Value)や、秀逸でユニークなSocial Goodの取組みを行う企業や団体等の皆さまを Shared Value ベスト プラクティスとして表彰をさせて頂いています。今回は、ネスレ日本株式会社 様を対象に授与させて頂きました。

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<インタビューにご協力頂いた方>

ネスレ日本株式会社

マーケティング&コミュニケーションズ本部

コーポレートアフェアーズ統括部 ステークホルダーリレーションズ室長

冨田 英樹 様

 

 

●「ネスカフェ アンバサダー」の取り組みは社会問題解決の観点から進められたと伺っています。

 

「ネスカフェ アンバサダー」は、2011年の東日本大震災が最初のきっかけと言えます。

その当時の「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」(コーヒーマシン、以下、「ネスカフェ バリスタ」)担当者は、阪神淡路大震災発生の時、高校生で、その時にボランティアの方々に助けて頂いたとの事です。

そういった被災体験がある中、東日本大震災が起きて、何か自分に出来ないかと考えた時に、この「ネスカフェ バリスタ」を避難所や仮設住宅に持ち込んだところからスタートしています。

 

●「ネスカフェ アンバサダー」が、震災がきっかけというのは意外です。

 

持ち込んだ本人も被災地で「ネスカフェ バリスタ」がどう役立てるのか見えていない中でのスタートと聞いています。

コーヒーは、コミュニケーションの場や、コミュニティには欠かせない飲み物の一つであると思っていますが、「ネスカフェ バリスタ」を通して提供することによって、そうしたコミュニケーションがより強固なものになったのではないかと考えています。

被災地の仮設住宅には、様々な地域から集まってこられています。そうしたコミュニティの中では、仮設住宅にお住まいの方々が、一緒に集まって話をしたりする機会もなかなか持つことが出来なかったと聞いています。そうした中で、「ネスカフェ バリスタ」を避難所や集会所に持ち込んで皆さんにコーヒーを飲んで頂こうというところから始まりました。

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●コミュニティの場作りということでは、「ネスカフェ バリスタ」は重要な役割を果たせそうです。

 

集会所に置いておくと、皆さんが興味を持って集まって頂き、人の輪が出来てコミュニケーションがスタートしていきました。

 

●マシンが一台あることによって、その場がカフェになりますね。

 

まさにそうなんです。コミュニケーションに欠かせないコーヒーという飲み物に加え、「ネスカフェ バリスタ」があることによって、コミュニケーションの場も提供出来るのではと考えました。

一方で、私たちが「ネスカフェ アンバサダー」のビジネスモデルを考えたのは、家庭外でのコーヒーの消費の6割のオフィスに注目したことにもあります。私たちは、家庭内消費ではトップシェアではありますが、家庭内でのコーヒーの消費はここ最近、減少傾向になり、市場も縮小しています。そうした中、ビジネス拡大のためには、家庭の外にも目を向けました。つまり、オフィスをビジネスの機会として考えるべきであると考えたわけです。であれば、職場の問題を解決することで、ビジネスチャンスやイノベーションを作ることが出来るのではないかということでした。

そうした中、私たちの「ネスカフェ バリスタ」をオフィスの中で使って頂こうとした時に、どんな仕掛けが必要かを考えました。

私たちが個別にオフィスを訪ねたり、ケアすることは、現実的ではない。そこで、会社の中で、マシンの設置やコーヒーの購入などを担当して頂く方がいらっしゃればと考えました。また、そのような方がいらっしゃれば、よりスムーズな関係作りが出来るのではないかと考えた訳です。

はじめての試みとなりますので、最初は北海道限定で試験的に、震災翌年の2012年にスタートしました。当時は、テレビCMも展開して、「ネスカフェ アンバサダー」の募集を行いました。

手探りの中でのスタートでしたが、最初から1,000人を超える応募がありました。北海道という限られたエリアにも関わらず、自分のオフィスでそうしたことをやってみたいという方々にこれだけ反応を頂いたことは驚きでした。

 

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●「ネスカフェ アンバサダー」の雇用契約や報酬はどの様なものですか?

 

「ネスカフェ アンバサダー」の方々は、私たちと雇用契約を結んだりはしません。それぞれアンバサダーの皆さんが勤務する職場の中で自発的にそうした役割を担っています。

 

 ●無報酬でアンバサダーを務めるということですが、アンバサダーの方々のモチベーションは何でしょう?

 

最初は、アンバサダーの方々にとって何がモチベーションになるのかわかりませんでした。聞いてみると、同僚から「ありがとう」といわれることがうれしいとのことでした。

以前は、オフィスでは、会社の福利厚生で、お茶やコーヒーが無料で飲める環境でした。しかしながら経費削減により、会社からお茶やコーヒーの提供がなくなり、小さなオフィスでは自動販売機が撤去されたりしました。社員は、自動販売機で缶コーヒーを買ったり、社外のコンビニエンスストアでコーヒーを買ったりしていました。買いに行くのも面倒だったりするわけです。つまり、おいしいコーヒーをリーズナブルに飲める環境では無かったという問題が挙げられます。

また、あとからわかったのですが、オフィスでは、メールでのやり取りが増えたり、喫煙スペースもなくなり、働く場でのコミュニケーションは希薄になっていたのです。

「ネスカフェ アンバサダー」をオフィスに導入することで、社員同士のコミュニケーションが活性化したことも喜ばれています。

●イノベーションの原点は、被災地の集会場であり、そこでの問題を職場に繋げているのが興味深いですね。

 

オフィスの中にマシンを設置できるちょっとしたスペースがあって、コーヒーを淹れたり、飲むことで人が集まってきてコミュニケーションの機会が出来る。そうした機会や雰囲気を作ってくれたということで、アンバサダーの方々は感謝される。

アンバサダーをやって良かったという自己実現が満たされることに繋がっていますが、働き甲斐にも繋がっていると言えます。弊社のテレビCMの様な雰囲気の良い職場環境が生まれています。

 

●アンバサダーの方は、現在何名ですか?

 

これまで約40万人の応募がありました。大きなイノベーションのビジネスモデルと言えます。

 

●そこまでアンバサダーの数が拡大している要因は何ですか?

 

オフィスで手ごろな価格なコーヒーが飲めることに加え、コミュニケーションの問題を解決し、そしてアンバサダーの方々が同僚から感謝されることにモチベーションをもっていることが、「ネスカフェ アンバサダー」が拡大している要因だと思います。言い換えると、オフィスには手ごろな価格でおいしいコーヒーが飲めない、職場でのコミュニケーションがなくなっていることが職場で認識されていなかった問題だったのです。

日本人のメンタリティやおもてなしの心、奉仕の精神とアンバサダーの仕組みが日本人に合っていたことも要因の一つかもしれません。

 

●個人主義の傾向が強いアメリカでは成功しない?

 

「ネスカフェ バリスタ」を無償で提供することにも抵抗があると思うし、職場の流動性も高いアメリカでは、文化的にもビジネスモデルとして合わないかもしれないです。

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●ネスレ日本さんの様々な記事や社長のインタビュー記事を拝見すると、イノベーションのキーワードが非常に目に入ります。イノベーションを起こすための仕組み作りの一つが、イノベーションアワードになるかと思いますが、その他、何か取り組まれていることや仕組みの様なものはありますか?ネスレ日本では、ビジネスアイデアを競う社内コンテストも活発に行われていると聞いています。

 

2011年から、全社員を対象にした「イノベーションアワード」という取り組みをスタートしています。イノベーションアワードの基本的なコンセプトは、社員ひとりひとりに顧客がいる、その顧客を取り巻く新しい現実を捉え、その新しい現実の中でうまれる顧客の問題を考えて、その問題の解決策を常に考えて実行することにあります。

スタートした2011年は、約80件のエントリー数でしたが、昨年は、4,800件を超える応募がありました。現在の社員数が約2,500人ですから、平均して一人当たり、2件近くの応募をしています。

もちろん、全てが大きなイノベーションに繋がるアイデアとは言えません。しかし、そうした取り組みを繰り返し、磨き上げていくことによって、その中からイノベーションに進化するものもあります。

 

●4,800件も応募があれば、審査も大変ですね。

 

審査も非常に大変です。しかし、スタート当初は、アイデアに対しての判断がなかなか難しいこともあって、最初は、社長が全ての応募に目を通していました。

イノベーションアワードは応募する側のみならず、審査する役員側のトレーニングにもなっています。ダイヤモンドの原石を見つけ、そして戦略に発展させるのが役員の任務です。

 

●応募することは、人事考課にもヒモづいていますか?

 

もちろん評価にも考慮されます。一人ひとりの目標項目に含まれています。

イノベーションアワードは、アイデアを出すだけではありません。応募に際しては、アイデアを実行して検証したプロセスや結果も求められます。

トライアルをしてうまくいかなければ、改善をして更にトライしてみる、そうしたプロセスに、上司も関わって磨き上げていくことをしています。

 

●様々なアイデアを出し、上司も関わりながら、そのアイデアを磨き上げていく、そうした取組みを日頃から出来ているのは、素晴らしい企業文化です。

 

トップマネジメントがリーダーシップをとって徹底的に取り組んでいることにより、少しずつ定着してきました。

 

●現在、様々な企業では、社内でイノベーションを起こそうとする取り組みが活発化しています。共創スペースを社内に作るのもその一つかと思います。他の企業がなかなか出来ていないことを、ネスレ日本さんが出来ているのはなぜですか?

 

イノベーションアワードは、自分がアイデアを出して、自らが中心となって検証し、評価をしてもらえるきっかけとなります。これまでの人事評価のやり方であれば、上司との相性も大きな要因となるでしょう。

しかし、イノベーションアワードは、そうしたことには左右されません。自分で一から考え、自分で取り組んでいくわけですから、前向きで能動的な社員にとってはモチベーションアップに繋がる良い仕組みになっているのではないかと個人的には思っています。

また、日常の業務の中で、自分のお客様はどんな問題を持っているのか、どうすれば解決できるのかを常に考えるということを重要視しています。

問題を明確に出来なければ、その解決策も不充分なものになってしまいます。

 

●なぜネスレさんがイノベーションを起こせているかということでは、CSVの元祖であるため、CSVが社内に浸透していること、そして、トップの強いリーダーシップがあるからかと感じています。

 

CSVそのものは、スイス本社の強いコミットメントで進めていますし、トップマネジメントの理解無しには進められません。

ネスレでは、共通価値の創造の注力分野として、栄養・健康・ウェルネス、農村開発、水を挙げています。世界各国の現地法人は、グローバルで掲げているコミットメントに対して取り組む一方で、各国それぞれ固有の社会問題に向き合い、解決することも重要です。ネスレ日本は、日本の社会問題を考え、さまざまな製品やサービスで貢献したいと考えています。社員一人ひとりが考え、実践する機会となっているのがイノベーションアワードです。

 

●社員の方々へのこうした研修制度の整備や社員の方々への浸透は如何ですか?

 

従来の集合研修に代わり、イノベーションアワードの様な実際の仕事のなかで考え、実践するというプログラムが増えています。。また、社員の中でも若手を中心に社会問題への意識の高い社員は増えていると思います。

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●ネスレさんがCSVに取り組むきっかけや経緯があれば教えて下さい。

 

CSVの取り組みは、最近になってはじめたわけではなくて、創業以来、150年の事業活動の根底にあるものです。

スイスの中で小さな企業として生まれ、企業として成長していくため、海外に進出してきました。その中で、いかにその地域の社会問題を解決していくことが重要であり、それをやらない限りはその地域でのビジネスは成功することは出来ないということを経験的に学んでいました。

様々な社会問題を解決する取り組みを行い、それを進めることによって地域の信頼を得ながらビジネスを拡大してきたということが、振り返ってみると共通価値の創造というコンセプトに繋がっているということです。

ネスレが創業した150年前のヨーロッパで乳幼児の死亡率が非常に高いことが社会問題でした。

早産の乳幼児は、母乳があまりでないため、栄養不足でした。ネスレの創業者アンリ・ネスレは、母乳に代わる粉ミルクを作り、子どもたちの命を救いました。当時から、社会問題の解決に繋がる取組みをしてきたわけです。

 

●社会問題をビジネスで解決するという考え方は、創業当初から基本としてあるものなんですね。

 

コーヒーの「ネスカフェ」も社会問題の解決です。1920年代後半から1930年の頃、ブラジルではコーヒー豆が豊作で、コーヒー豆の価格が暴落しました。価格の暴落を恐れて収穫されたコーヒー豆がそのまま捨てられていました。

その当時から、ネスレは粉ミルクで高いレベルの乾燥技術を持っていましたから、ブラジル政府からコーヒー豆を捨てずに何とかできないかとネスレに相談があり、開発に成功した製品が 「ネスカフェ」です。

以前から、社会問題の解決をしながら、自社のビジネスに繋げる取組みが出来ていると言えます。

単純に良い製品を作って、それを提供するということだけでは、現代の社会問題は解決できないということを弊社トップマネジメントは発信しています。

 

●あるインタビュー記事で、「顧客の問題を製品で解決出来る時代は終わった」との高岡社長のコメントを拝見しましたが、まさにそういう考え方に基づくものなんですね。また、高岡社長のコメントに、「21世紀は、顧客の問題をインターネットで解決する」というものありました。その辺りを詳しく教えて頂けますか?

 

従来はソリューションとして提供出来なかったことが、IoTやAIなどを通じて実現できる様になります。また、実現のためには、そうした技術を持っている企業とのパートナーシップも重要です。

コーヒーマシンと専用タブレットをセットにしたサービス「ネスカフェ コネクト」は、タブレット画面にいる「エージェント」に話しかけるだけでコーヒーを淹れることができたり、コーヒーを淹れると離れて暮らす家族に知らせたり、メッセージを送受信したりできます。

 

●エンターテインメントサイト「ネスレ アミューズ」の取り組みにもとても興味があります。

 

従来、私たちは、TV、新聞、雑誌を中心に広告宣伝をしてきましたが、「ネスカフェ」や「キットカット」のような認知度の高い製品ブランドは、従来の広告宣伝では、もはや売上には貢献しません。新たなコミュニケーションのアプローチが必要です。そのひとつが製品ブランドサイト、エンターテインメントサイト、ECサイトを統合した「ネスレ アミューズ」になります。

●最後に、イノベーションをどう起こすか、CSVにどう取り組むべきか、多くの企業の方々が悩まれているかと思います。そうした方々へのアドバイスやメッセージをお願い致します。

 

まずは、トップマネジメントの理解やコミットメントがとても重要です。そして、社員一人ひとりが実践するために、社員のマインドセットと環境を作っていくことが不可欠です。
また、「トップマネジメントの理解をどうしたら得られますか?」という質問を頂くことが非常に多いのですが、やはりトップマネジメントのコミットメントを前提として、全社員が関わるためのシステムをどう作るのかがカギとなります。

CSVの取り組みは、全ての企業が同じ事を行うわけではありません。それぞれの企業が強みを活かして、社会問題の解決に繋がることを考えるのが重要です。

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※共通価値の創造とは? https://www.nestle.co.jp/csv/whatiscsv

 

共通価値の創造は、短期的に経済的価値を作るという観点ではなく、取り組みを継続することにより、長期的にビジネスに繋がり、経済的価値が生まれるという視点を持ち続けることです。そして、それを続けて行かないと、社会から見放される時代であることを理解しなければいけません。だからこそ、トップマネジメントのコミットメントが重要なんです。

また、私たちは創業以来、共通価値の創造を根底にした事業活動の進めています。それを進めることによって、結果的にSDGsの目標にも関わっていきます。SDGsの17の目標一つひとつを起点にするのではなく、社会問題の解決に取り組むことは、複数のSDGsの目標達成に貢献することなんです。

 

●本日はインタビューの機会を頂きましてありがとうございました。今後もネスレさんのCSVの取組みを注視したいと思います。

 

 

■コラム執筆・インタビュアー
エンゲージメント・ファースト 萩谷 衞厚


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カテゴリ: Creating Shared Value(CSV)
2018年03月05日

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